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全4回にわたってお届けするミツメのメンバー個別インタヴュー。今回はベーシストのナカヤーンに登場してもらった。このバンドの4人中、ひとりだけ年下にあたる彼は、いわばミツメの末っ子的存在といったところだろうか。実際、ステージ上でのアクションも大人しめなミツメのなかで、彼の躍動的な佇まいは一際目をひく。そして何を隠そう、彼はミツメの4人で唯一ソロ・アルバムをリリースしているメンバーであり、そうした動向においても、常に目が離せない存在だ。そんな彼は、こちらから質問を振るでもなく、みずからこんな話題を切り出してくれた。こんな人懐っこさもまた、ナカヤーンのチャーム・ポイントだと思う。

ナカヤーン 今回、メインのベースを変えたんですよ。これまではずっとジャズ・ベースを使ってたんですけど、それをプレベ(プレシジョン・ベース)に変えてみて。

ーーおお。その変更はどういう気分のあらわれなんですか。

ナカヤーン プレベにはずっと興味があったんです。それこそディアンジェロのアルバムにも参加してた、ピノ・パラディーノっていうベーシストがいるじゃないですか。あのひともずっとプレベだし、自分で弾いたらどんなもんだろうなって。それで実際に楽器屋で試してみたら、すごくよかったんですよね。

ーーヴィンテージ?

ナカヤーン はい、77年製のやつです。なんていうか、ジャズベはけっこう優等生な音なんですけど、プレベはミドルが固くてギュッとした太い音が出せるベースなんですよね。それこそパンクの人とかにもよく使われているんですけど。

ーーおなじフレーズを弾いても、ジャズベとプレベでは印象がだいぶ変わってくると。

ナカヤーン もう、ぜんぜん違います。そこが僕にとってはものすごく新鮮だったというか。なので、今回のレコーディングは、ほとんどそのプレベで演奏してみました。ちなみに“オブジェ”という曲に関しては、川辺さんの家にあるヴァイオリン・ベースを使ってるんですけど。

ーーもしかしてそれ、一時期ナカヤーンがミツメの活動を休んでいた頃に、川辺くんがライヴで弾いてたやつ?

ナカヤーン よく覚えてますね(笑)。そう、あれです。今回はその“オブジェ”と、あと“霧の中”以外はぜんぶプレベ。というのも、今回のアルバムにはけっこう80’s funkっぽい曲が多かったから、これは音色の選び方がキーになりそうだなと思って。だったら、ここはブリッとしたパンチのある音がほしいなと。特に“あこがれ”と“忘れる”あたりは、プレベに変えたことがすごくいい効果を生んだ気がしてます。いま思うと、“めまい”のときもプレベで弾いてたら、もっとよかったのかも。

ーーそうそう、ナカヤーンはミツメのなかでも特にファンク志向のつよい印象があって。今作にはそこがすごく反映されてる気もしたんですが。

ナカヤーン そうかもしれないです。DJするときもよくファンクでまとめたりしてます。でも、ファンクといっても色々あるじゃないですか。それこそ川辺さんが好きなファンクと、僕が好きなファンクでは、またちょっと違うだろうと思うし。

ーーーーたしかに。じゃあ、ナカヤーンが好きなファンクっていうと?

ナカヤーン スライ&ザ・ファミリー・ストーンが一番好きっていうのはまずあって、P-FUNKとか黒さ全開の泥臭いやつも当然大好きです。あと、そこからいくと結構違いますけど、ブギー・ファンクも一時期夢中になりました。〈MOFUNK〉のサイトで落とせるEddy Funksterのミックスだったりをめちゃめちゃ聴き込んでました。それこそ、ブギーの洗練された音とビートは、ミツメの音楽にもそれとなく落とし込めたらいいなと思っていましたし。で、川辺さんが今回用意してきたデモからは、なんというかリズムへの関心がすごく高まっているのを感じたので、ここは自分もそういうアプローチで行くべきだなと。

ーーソングライターの意識が今どこに向かっているのかを汲み取りながら、演奏者としてのアプローチを考えていると。

ナカヤーン そうですね。ただ、ミツメって「今回はこういう感じにしようよ」みたいな会話はそんなにしないんで、そこはバンド内の空気で感じ取るしかないというか。そこが難しいところでもあり、おもしろいところでもあるんですよね。それこそ今回は、まず始めにつくった“忘れる”のデモがけっこうモダン・ファンク的なノリだったので、だったら自分はそこにどうアプローチしていこうかな、みたいな。“キッズ”なんかも、ブギー・ファンクのシンセ・ベースみたいなイメージで弾いてみたりして。

ーー“オブジェ”もファンキーですよね。ブレイクでナカヤーンのベースが完全に引っ込んじゃうところもすごくスリリングだし。

ナカヤーン あれは雅生さんのアイデアなんですよ。攻めてますよね(笑)。“オブジェ”って、曲全体としてはわりとフツーに16分を刻んでるんですけど、ベースだけが気持ち跳ねてるイメージのフレージングになってて、そこがちょっとファンキーかなと。あと、ミツメは2本のギターの重なりがかなり際どいコード・ワークになることも多いので、そういう時はベースがシンプルにルート音を弾かないと、アンサンブルが危うくなる場面もあったりします。

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ーールート音をしっかり置きにいかないと、場合によってはアンサンブルの均衡が保てなくなると。

ナカヤーン そう、まさにその「音を置く」感じのベースですね。短く切った音をそこに置くっていう、すごくシンプルなパターンが“めまい”のときにひとつ出来上がって、それが今作の“真夜中”とか“霧の中”“幸せな話”あたりにも表れたというか。ひとつの音をどう切って、どう伸ばすか。演奏のグルーヴってそういうところに反映されてくるものなので、一個一個気を使って考えていますね。なによりも今回のアルバムはスタジオで詰める時間が長かったから、プレイヤーとしてやれることをしっかり考えられました。

ーーたしかに今回のアルバムって、ナカヤーンのベーシストとしてのキャラクターがはっきり出ていますよね。一方で『ささやき』の頃は、どちらかというとソングライティングのほうに意識が向いていた印象もあるんですが。

ナカヤーン たしかに『ささやき』の頃は、「自分はベーシストだ」みたいな意識がいちばん薄かった時期かもしれないですね。

ーーしかも、その『ささやき』のあとに、ナカヤーンは『EASE』というソロ・アルバムもだしていて。

ナカヤーン あれはもう完全に、『ささやき』に引っ張られてつくったアルバムなんですよ。『ささやき』は個人的にもホント大好きなアルバムで、実際にあれを4人で宅録していた時期は、とにかく刺激を受けっぱなしだったんです。で、そこで湧きあがった創作意欲に突き動かされて、バンド内では吐き出せないものを、あのソロにぶつけたというか。うん、いま思うと『ささやき』のときに得たインプットは相当大きかったんでしょうね。

ーーなるほど。『ささやき』があったからこそのソロ・アルバムだったと。

ナカヤーン そうですね。で、その『ささやき』とか、ソロ・アルバムをつくっていたときは、それこそギターであったり、シンセの音作りにものすごく時間をかけていたんですけど、逆に弾き慣れているベースに関しては、手グセで終わらせちゃっていたというか。だから、そのへんの意識を『めまい』の頃にもういちど改めたって感じでした。

ーー『EASE』って、それこそ曲間のつなぎも練られていたじゃないですか。そのへんはミツメの新作にも通じるところがありそうだなって。

ナカヤーン たしかに、ソロでも曲のつなぎとかは相当練ってつくりましたね。でも、今回のアルバムのつなぎとか、全体のトーンに関しては、特に誰が言い出したってわけでもなく、あくまでもバンドのなかで生まれたアイデアを時間をかけて形にした感じですね。ソロ・アルバムに関しては、本当に自分一人でいつまでも詰められるので、当時はちょうどファウストとかにハマってた時期でもあるから、そういう感じでコラージュ的に色々重ねたらおもしろそうだなぁ、とかってずっと作業に没頭はするんですけど、結局色々盛り込みすぎてとっちらかった感じもあるので。

ーーまたソロでの制作を考えていたりはしてる?

ナカヤーン いずれ絶対にセカンドはつくりたいと思ってます。ただ、今は忙しくてあまり作業ができないので、実際に次のソロがどうなるかは、そのとき自分が突き動かされたものに従うのみって感じですね。もしかすると、ヤバめのメンバーを集めて生演奏で録りたくなるかもしれないし、逆に宅録でいくかもしれないし、それはそのときに気分で決まると思います。

ーーじゃあ、これはあくまでも過程の話で結構です。もしソロをやる時間が確保できたとしたら、今ならどういうアイデアを具現化したい?

ナカヤーン そうですね。これは一年以上前につくって、もうライヴでは演奏している曲のアイデアなんですけど、『ゾンビ』っていう映画があるじゃないですか。あの映画のゆるいディストピア感に触発されてつくった、そのまんまなんですけど“Dawn of the Dead”っていう曲があって。チープなリズム・マシーンにシンセとかを乗っけた感じの曲で、途中で「ああなんでこんな感じの世界にいるんだろ俺」みたいな気分になるようなコードの反復部分があったりするんですけど、妄想膨らませて一個テープとかをつくれたらおもしろいだろうな、とかは思ってます。時間、欲しいですね(笑)

 
Text : 渡辺裕也
Photo : トヤマタクロウ