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ミツメのメンバー個別インタヴュー。第2回目に登場してもらうのは、ドラマーの須田洋次郎。新作『A Long Day』を聴き、その手数を研ぎ澄ました、しなやかなドラミングに耳をひきつけられた方は少なくないはず。4人の有機的なバンド・アンサンブルを捉えた今作のキー・プレイヤーは、きっと彼に違いないーーそんな確信めいた予想を胸に秘めつつ、さっそく彼との対話を始めてみたいと思う。ということで、まずはこんな質問からスタート。

ーーこれは前々から訊きたかったんですけど、ここ最近、洋次郎くんのファッションが妙に攻めているというか。

須田 ハハハ(笑)

ーー精悍な感じになりましたよね。で、これはどうしたものかと。

須田 そこについては、気づいたらこうなっていたというか…。僕、カメラマンのトヤマタクロウくんとよく洋服を買いに行くんですけど、ある時に彼が古着屋さんで見かけたボロボロのGジャンを手にとって「これ、どうですか?」と言ってきたことがあって。

ーー“めまい”のMVで羽織ってたやつ?

須田 そう、あれです。それで僕も「いやいや、こんなの着てるやつ、どこにも歩いてないって!」と断ったんですけど、「いや、これ絶対にいいよ!」という彼の言葉に乗せられて(笑)。で、その当時はライヴのときに何度か着る程度だったんですけど、それから季節がひと回りした頃に、家であのGジャンがふと目に止まったんです。それで、改めて着てみたら「意外と普通だな」と。多分、そのあたりからでしょうね。だんだんおかしくなり始めたのは。

ーー(笑)。

須田 あと、その延長線上で、「ブルーハワイ」の撮影のときに黒いGジャンを買ったんですけど。

ーーノースリーブのやつ?

須田 そうです。でもあれ、元々は長袖だったんですよ。(撮影地の)台湾に到着するまでは普通に着ていたんですけど、現地のホテルについたら、けっこう暑くて。そうしたらタクロウくんが、「袖、ハサミで切っちゃおうか。襟も邪魔だよね」と。で、ついでに下に着るTシャツの袖も切って。

ーー(笑)。

須田 僕もそれを自然に受け止めていたというか、「まあ、わりと普通じゃないかな」くらいの感じだったんですよ。でも、その格好で撮ったアーティスト写真を見た友人には、けっこう笑われました。「どうしちゃったの?」みたいな反応で。

ーーあれは僕もびっくりしました(笑)。でも、こうして洋次郎くんのファッションに変化がでたことによって、メンバー全員のキャラクターが伝わりやすくなったような気もしていて。

須田 ああ、それなら良かった。元々このバンド内では、僕だけすこしタイプがちがうようなところは以前からあったんです。それこそ、僕は体育会系で育ってきたこともあって、スポ根なノリがあったりするので(笑)。あと、ミツメって前の3人が並んでコーラスをやるじゃないですか。で、僕はそのうしろでひとりドラムを叩いているっていう。僕、あの状態がものすごく好きなんですよ。というか、このバンドの特徴って、まさにあの3人が横並びで歌っている姿にあるんじゃないかなと思っていて。だから、この「3人とひとり」みたいなバランスは、見た目以外のところでも表れているような気がするし、僕もそれでいいなと思っているんです。

ーーなるほど。それにしても、洋次郎くんがドラマーとして実践していることって、他のバンドのドラマーともちょっと違うような気がしていて。つまり、いわゆる歌モノを支える屋台骨、みたいな感じのドラムではないと思うんですよ。それこそミツメって、全員がリズム・パートみたいなところがあるから。

須田 うん。実際、そうだと思います。

ーーだから、そのドラマーとしてのスタイルをどうやって築いてきたのかを、今日は訊いてみたくて。

須田 そうだなぁ…。まず、バンドとして宅録の作業に力を入れるようになったことが大きいですね。というか、元々ミツメは、川辺と雅生がお互いに宅録のデモを交換しあうところから始まったバンドなんです。で、それからこの4人でバンドをやろうとなったときに、まずはひとりが用意してきた曲をスタジオで合わせてみようかと。

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ーーそれはファーストの曲を作っていた頃?

須田 そうですね。で、バンド内ではその頃から「できるだけ音を少なくしたいね」という話が出ていたんですけど、当時は自分たちのアイデアも少なかったから、どうしたらいいのかわからなくて。そこで、しばらくライヴ活動を休むことにしたんです。そのかわりに、みんなで家に集まって、一緒に宅録をやってみようと。そうしていくうちに、自然と僕らのやり方も「まずは誰かの家に集まってデモをつくる→そのデモをスタジオで再現をしてみる」みたいな順番になっていったんです。つまり、スタジオ入りする前の段階で、ある程度のアンサンブルは成立させておくというか。

ーーその宅録のデモ制作って、基本的に各自の演奏するパートは自分で考えるんですか。

須田 いや、かなりそのときどきでバラバラです。ドラムのパターンも、作業しながら思いついた人が打ち込んでいきます。で、それを実際にスタジオで「さあ、叩くぞ」となったときに、これがもう、ぜんぜん普通じゃないというか。「これ、どうやって演奏すればいいんだろう?」みたいな感じで。

ーーこの打ち込みを生ドラムで再現するのは、ちょっと難しそうだと。

須田 でも、そこで「こんなのできないよ」と言うのも、なんか違う気がしたんです。なので、とりあえずなんでもやってみようということで、いろいろと試行錯誤していったら、新しい発見がたくさんあって。そうしていくうちに、メンバーから提案されたリズムを叩くのも、どんどん面白くなってきたし、「ドラムって、こういうやり方もありなんだな」と思えるようになってきたんです。で、あれはまだ『eye』を作っている途中だったかな。サンプリング・パッドを買ったんですけど。

ーーそれもまた、宅録デモの再現性を上げるため?

須田 そうですね。宅録で“Fly Me To The Mars”とか“煙突”みたいな曲が出来て、それをライヴで演奏するとなったときに、リズムだけじゃなく、音色としても生ドラムだけでは補えなくなってきたから、サンプリング・パッドに音を入れて、それをライヴ用に微調整しつつも、なるべくアレンジのイメージを崩さないようにしたいなと。

ーーじゃあ、サンプリング・パットの導入は、ドラマーとしてのアプローチを広げるきっかけとしても大きかった?

須田 でも、そこに関しては、言葉を選ばずに言うと、やらされてる部分が大きかったと思います。メンバーのなかで、すでに楽曲のイメージが出来上がっているんだから、まずはそれをなんとか再現しなきゃなって。そうやって「宅録の再現としての生演奏」を重ねていくなかで、『ささやき』というアルバムができて。こういうやり方を続けてきたバンドとして、『ささやき』はとても納得のいく作品だったんです。ただ、あのアルバムはレコーディングで楽器をたくさん重ねていたから、ライヴで再現するのがすごく難しかった。そこで、「じゃあ、次は4人が演奏している画が浮かぶような作品にしよう」ということになって。それなら、今回は宅録で詰める要素を減らして、あとはスタジオでやってみようと。比率的にいうと、『ささやき』が「宅録9:スタジオ1」くらいだとしたら、『A Long Day』は半々か、もしかすると4:6でスタジオのほうが多かったんじゃないかな。

ーーそうなってくると、洋次郎くんが叩くドラムのフレーズにも、おのずと変化がでできそうですね。

須田 そうですね。もちろん、これまでのように4人でパソコンに向かう作業もあったんですけど、今回はその期間が短くて、アレンジもわりと未完成なままでスタジオに入りました。それって、他のバンドからすれば普通のことだと思うんですけど、ミツメからすると新鮮というか、久しぶりの感覚だったんですよね。あと、僕らってスタジオで演奏しているときはけっこう会話が少ないんですけど。

ーー普段はあんなにしゃべってるのに?

須田 はい(笑)。それがいざスタジオで演奏するとなると、1曲やり終わるたびに、「シーン」みたいな感じで、そのうち誰かが「じゃあ、今のもう一回やろうか」といったら、また演奏が始まるっていう。そういうなかでなんども演奏しているうちに、僕もよくわからなくなってきて、途中で「これはもう、頭で考えるのはやめたほうがいいな」と思って。なるべくなにも考えずにスタジオで演奏したら、その録音を家で聴き返して、次のスタジオではまた頭を空っぽにして演奏する。そういう作業を繰り返していくうちに、今までのアルバムでやってきたことが自然とつながってきたんです。それで、自分なりのドラム・パターンが出来ていったというか。

ーーなるほど。では、その『 A Long Day』のアレンジをつくっていくうえで、なにかヒントにしたものがあれば、ぜひ教えてほしいです。

須田 それは曲にもよるんですけど、単純にその頃よく聴いていたのは、ヘリオセントリックス&メルヴィン・ヴァン・ピーブルズの『ザ・ラスト・トランスミッション』ですね(英国のファンク・バンドとブラック・ムーヴィ界の大御所によるコラボ作。2014年リリース)。あの靄がかった感じのサイケなファンクを聴きながら、「これだけ自由に叩いても、意外と曲って成立するんだな」みたいことをよく思っていたので、もしかするとそれは今回のレコーディングにつながってるのかも。あと、デイム・ファンク のライヴをメンバー4人で観に行ったんですよ。

ーーデイム・ファンク、昨年末に来日してましたね。

須田 あのバンドのドラマーも、それこそものすごく自由に叩いてて、それでも踊れるしハズさないっていう。あのライヴを観たことで、また純粋にひとりのドラム・キッズみたいな気持ちになれましたね。それ以外だと、アーロン・スピアーズ(ゴスペル・チョップを代表する世界的なドラマー)のフレーズを真似して練習してみたり。彼の叩き方って、それこそ手順も左右バラバラだし、本当にふつうじゃないんですよね。あのひとつひとつの音が並んで流れていくようなドラムを、自分なりに練習してみたこともあったので、その影響は今回のアルバムにもいくらか表れているかもしれません。

ーーなるほど。今日のお話を聞いていると、今回の『A Long Day』というアルバムに対して、おそらく洋次郎くんはこれまでの作品とまったくちがう手応えを感じているんじゃないかなと思ったんですが、いかがですか。

須田 そうですね。まず、僕のなかにはふたつの頭があって。たとえば、ファーストがそうだったんですけど、わりと自由度が高いなかで好きなように叩けるのって、やっぱりドラマーとしてはすごく楽しいことなんですよ。でもその一方で、僕はドラマー云々ではなく、あくまでもバンドの一員として何をやるべきかってことも、常に考えていたくて。バンドのロマンというか、バンドならではの楽しさって、僕はそういうところにあると思ってるんです。で、そういうふたつの頭で考えていたことが、今回のアルバムではいい形で合致できたんじゃないかなって。なので、たしかにこれまでのアルバムとはまた違う満足感がありますね。

 
Text : 渡辺裕也
Photo : トヤマタクロウ