mitsume Ghosts

2019.4.3
CD LP
11Songs

mitsume.me

mitsume Ghosts

nakayaan

ミツメ通算5作目のスタジオ・アルバム『Ghosts』がついに完成した。アルバムとしては約3年ぶりのリリースとなる今作について、ここではメンバー全員の個別インタヴューをお届けしたい。ということで、第一回に登場してもらうのはナカヤーン。「エスパー」「セダン」という先行シングル2枚に導かれてスタートしたアルバムの制作過程について、彼にはベーシストの見地からことこまかに語ってもらった。すると、その制作プロセスは「DAW上で延々とセッションする」という、かなり特殊なやり方だったようだ。まずはそんなところから『Ghosts』の全容に迫ってみよう。

ーー『Ghosts』と前作『A Long Day』を聴き比べると、ベースのアプローチがずいぶん変化したように感じました。

ナカヤーン たしかにそうかもしれないですね。いま聴き返してみると、『A Long Day』ってベースの音をぜんぜん伸ばしてなくて。ひとつひとつのフレーズがブツブツに切れていて、けっこう力技というか、トガッたことをしてるなと(笑)。

ーー『A Long Day』は音数も少ない作品だったから、そのブツブツとした弾き方がより際立ってましたよね。それがまたすごくファンキーだった。

ナカヤーン そうですね。客観的に聴いてみると、『A Long Day』はけっこう特殊なグルーヴを提示している作品だったのかもしれない。だからってわけではないんですけど、「エスパー」のときはポップスとして聴きやすいようなアプローチでいきたいなと思ってました。そういう流れから、今回のアルバムは『A Long Day』の時とはまた違った意識で弾くことになったのかなって。

ーー具体的にはどんなことを意識してたんですか。

ナカヤーン えーっと。ちょっと時系列が曖昧なんですけど、トリプルファイヤーの鳥居真道くんが時々やってる『リズム・アナトミー』というトーク・イベントがあって。

ーーあのイベント、面白そうですよね。テキストを読んだことがあるんですけど、めちゃくちゃロジカルな分析がなされていて。

ナカヤーン あのイベントはホントすごいですよ。『ジェームス・ブラウンの「セックス・マシン」の3拍目のスネアの直後のギターが若干走って鳴らされるのが気持ち良い弾力性あるビートを生んでいる』とかいう細かい話ばかりなんですが、一つ一つが面白すぎて衝撃的で、ものすごく影響を受けました。どこまで音を伸ばせば、あるいはどこで音を切れば、演奏のハリとグルーヴをもっと出せるのか。音の厚みとか、ギターとの兼ね合いをどこまでコントロールできるか。そういうことをより意識するようになりました。実際、そういうことって曲全体の雰囲気に相当関わってくるんですよね。

ーーたしかに。ちなみに今作ではどのベースをメインで使ってますか? 前作はプレベ(プレシジョン・ベース)でしたよね。

ナカヤーン 今回はほぼジャズべ(ジャズ・ベース)です。『A Long Day』ツアーの終盤あたりからはライヴもジャズべに戻して、そのまま「エスパー」と「セダン」もジャズべで録ってみました。プレベはいい意味でレンジが狭いから、高い音程で弾いたときにブリッとしたパンチのある音が出て、フレーズを強調できる。逆に、ジャズべは線が細い代わりに低音までしっかり出せるから、アンサンブルをバランス良く支えることでクオリティが上がる。だいたいそういう使い分けですね。今回プレベを使ったのは「タイム」と「ディレイ」だけかな。

ーー「ディレイ」といえば、アウトロに語りが入ってるじゃないですか。あれ、ナカヤーンの声ですよね?

ナカヤーン はい(笑)。あれは僕が詞を朗読してるんです。

ーー今作はナカヤーンのヴォーカルがいつも以上に活躍してますよね。

ナカヤーン そう聴こえますかね?(笑)要所要所で主張してくる感じは確かにありますね、「ふたり」とか「なめらかな日々」とか。基本的に、コーラスを重ねるときは、雅生さんと僕はかなり声質が違うから、けっこう歌い分けがあるんです。川辺さんの声とハモったときに川辺さんの声が良い感じに立つのは雅生さんの声で、僕の声は倍音が多くて妙に目立つから飛び道具的に使用されることが多いような気がします。ただ、「ターミナル」のハモりは雅生さんと僕の両方がやっていて、そういうパターンもあります。

ーー「ターミナル」の序盤で鳴ってるのはシンセ・ベース?

ナカヤーン はい、始まりのところはシンベを使ってます。そのアイデアを思いついたのは雅生さんで、レコーディングでもシンべ部分は雅生さんが弾いてます。僕は後半からダブっぽく変則チューニングでベースを弾くことで、曲構成的にメリハリをつけています。この曲は2016年にアレンジしたデモがあって、その時点でもノーウェーブ感のちょっとある格好いいギターがのっていたんですが、レコーディングのかなり直前になって雅生さんがウワモノを大部分構築仕直したりして、ガラッと印象が変わりました。今回のアルバムの制作って、終盤に至るまでかなり掴みどころがなかったんですよ。一体どんなアルバムになるのか、ぜんぜん予想がつかなかった。

ーー今作は「エスパー」「セダン」という先行シングルに導かれた作品でもあると思うんだけど、アルバムとしての方向性を見定めるまでには、それなりの時間がかかったということ?

ナカヤーン そうですね。後付けで「今回はこういう方向性だった」みたいなことは言えるんですけど、実際はどの曲もけっこうやりたい放題につくっていたというか。

ーーギター、ベース、ドラム以外の音もたくさん入ってますよね。

ナカヤーン ええ。ただ、今作に入ってる音はほぼすべてYAMAHAのDX-100というシンセサイザーで鳴らしてるので、使用した楽器の数自体は少ないし、そういう意味ではすごくシンプルなんです。ただ、そのDX-100のプリセット音がけっこうチープなのもあって、個人的にはデモの段階で「これ、バンドの音にちゃんと馴染むのかな…?」みたいな不安もちょっとあったんですがそれは杞憂で、エンジニアの田中章義さんとの綿密なミックスワークを経て見事に美しく変化していって、「レコーディングっていいな…」とあらためて思いました。

ーー曲作りはどのような工程で行ったんですか? 『A Long Day』のときはスタジオでのセッションに時間を割いていたけど、通常のミツメはPCと向きあう作業が比較的多いバンドですよね。

ナカヤーン 今回は“PC上でのセッション”みたいな感じでした。PCの画面と向き合いながら、雅生さんと須田さんと僕が「せーの!」で演奏するっていう。

ーーPCと向き合いながら「せーの!」で演奏?

ナカヤーン (笑)。要はPCにラインでみんなの楽器をつないで、リアルタイムでセッションしたんです。須田さんはサンプラーパッドをエレドラ代わりにして、PC内にある川辺さんの歌をひたすら繰り返しながら、延々と演奏して、しっくりくるフレーズを探すっていう。で、その演奏中は言葉もあまり交わさないから、やってるうちにトリップするような感覚になってきて…。ちょっと異様な作り方ですよね(笑)。

ーーそのセッション中にリピートされるのは、川辺くんの歌だけ? ガイドになるようなコード進行は鳴らさなかったんですか?

ナカヤーン コード進行も抜いてました。なので、たとえば「なめらなか日々」みたいなシンプルなコード進行の曲はけっこうサクッと出来たし、逆に「エックス」と「ふたり」なんかは、自分達もワケがわからなくなるくらいにずっとループを続けてました。今回はそういうやり方で20曲くらい作って、そこから絞ったんです。

ーーアルバムに収録されなかった曲がけっこうあるんですね。

ナカヤーン そうなんです。他にもお気に入りの曲はいっぱいあったんですけど、今回はあらかじめ曲目と曲順を決めてからレコーディングに臨もうということになって。で、そこからの集中力がすごかったんです。アルバムとしてのまとまりが出てくるなかで、曲もどんどん化けていって。

ーー「どんなアルバムになるのかぜんぜん予想がつかなかった」という話もありましたけど、結果的に今作はものすごく必然性の感じられる曲目/曲順になってると思いました。

ナカヤーン そうなんですよね。僕も今回のアルバムは『A Long Day』以上の完成度だと思います。アルバムとしての空気感や包容力もしっかり提示されてるし、いろんな角度から楽しめるっていう意味でも、今回のアルバムは今までの作品でいちばん深みがある仕上がりになったんじゃないかな。僕はもう、いちばん好きなアルバムですね。特に「ふたり」をつくっている時はホント興奮しました。カリンバみたいな音とギターが重なった時の、あの数学的な響きがすごいなと。

ーー僕も「エックス」~「ふたり」の流れにやられました。あの2曲はホント強烈。

ナカヤーン たしかにこの曲順で並べた時、「エックス」~「ふたり」の流れがちょっとディープ過ぎないか? みたいなことはみんなともちょっと話し合ったんですけど(笑)。この流れで「セダン」に入っていくと、曲にまた違う意味合いが出てきた感じがして。

ーーそうなんですよね。アルバムの流れで聴くと、先行シングルだった「セダン」の印象がすごく変わる。

ナカヤーン 「セダン」は曲単位だと明るい感じなんだけど、この流れで聴いてみるとそう聴こえないというか、途中のノイズも過去をざわつかせるようなギミックに思えてくる。多分これって僕だけじゃなくて、アルバムを聴いてくれた人はみんな感じてくれるんじゃないかな。こういうときに「アルバムってやっぱりおもしろいな」と思いますね。 今回こういう作品をつくれたことで、また創作意欲が高まったし。

ーーおお。そういえば、最近のナカヤーンはミツメの他に、ボーボー(JAPPERSの竹川天志郎のソロ・プロジェクト)との共同制作もありましたね。

ナカヤーン ボーボーに関しては、主に僕は作品として良いものになるようディレクションをしたって感じですね。ベースを弾いたり、事務的なことを手伝いつつ。一昨年の夏頃から動き出していたものがようやく形になってよかったです。

ーーでは、ソロ名義での制作については現状いかがですか? ナカヤーン・バンドのライヴも頻繁に行われてるし、久々のソロのリリースにも期待してるのですが。

ナカヤーン 最近、曲は作ってます。例によって、今作のレコーディング・セクションでメンバーがガンガンにクリエイティビティを発揮している姿を見てたら触発されてきてしまって。それで創作意欲が高まっているところに、毎年参加してる<de.te.ri.o.ra.tion>(Nag Ar Junaの橋本竜樹が主宰するインディ・レーベル)の忘年会で、竜樹さんたちと「曲をつくるモチベーションをあげるために、これから月イチでデモを聴かせ合おう」みたいな話になって、これはいいぞと。それで年明けから毎月新曲を用意して、<de.te.ri.o.ra.tion>のみなさんに聴いてもらってます。なので、こういうところからソロとして出せるものがまた作れたらいいですね。やっぱり僕、音楽活動のなかで“作品づくり”がいちばん好きなんです。


Text : 渡辺裕也
Photo : トヤマタクロウ