めまい Special Interview
interview & text by 渡辺裕也
ミツメのニュー・シングル『めまい』を聴き、ふと気がつく。そうか、『mitsume』からもうすぐ4年になるのか。今はなき〈南池袋ミュージック・オルグ〉で開催されたミツメの自主企画「Winter Night Recordings」。あそこで初めて見た彼らのライヴは、今も忘れがたいものとして自分のなかに刻まれていて、時折あの時の4人を思い出すと、その後の目覚ましい躍進ぶりに、ついつい胸が熱くなってしまう。
あの頃からミツメはどう変わったんだろう。そこでもういちど『めまい』に耳を傾けてみる。すると1曲目の「めまい」は、どう聴いてもギターが1本しか鳴っていない。ほぼ3点のみのドラムとスタッカート気味のミニマルなベース・ラインも手数を徹底的に抑えていて、その音像はとにかく隙間だらけだ。一方、その隙間で所在なさげにリズムを刻んでいるエレピの単音が妙に可愛いらしい。そして何よりも川辺素が紡ぐメロディの親しみやすさには、思わず頬が緩んでしまう。
このタイトル・トラックを筆頭に、どうやらミツメは今回のシングルを通してバンド・アンサンブルの再構築に挑んでいるようだ。ここから聴こえてくる彼らの演奏は、2014年のアルバム『ささやき』、あるいは同じく昨年に公開されたスタジオ・ライヴ映像〈Blue Hawaii Session〉で確認できる濃密な音像からはいくらか趣が変わっており、現在のミツメがまた新たなモードに入ったことをさりげなく伝えている。このひたすら抑制したまま、後半でわずかに熱を上げていく演奏のなめらかさは、もはやかつての彼らとは比べるべくもない。
同時に『めまい』を聴いていると、ミツメはあの頃から何も変わっていないような気もしてくる。当時からこのバンドの音楽はどこか淡々としていて、演奏のテンションを無理に高めるようなところがなかった。そして彼らはどことなく呑気で、いつも楽しげだ。今回のシングル『めまい』には、そんなミツメのどこかのほほんとした雰囲気がそのまま捉えられている。そう、川辺くんの言葉を借りれば、このシングルは「今までのミツメには出来なかったことが、少しだけ出来るようになった」作品なのだ。演奏とソングライティングの両面で、ここにはミツメの着実な成長が記録されている。
さて、その『めまい』のリリース・ツアーを目前に控えた4人と、久々にゆっくり話すことができた。今回の4曲についてはもちろん、あのシュールなミュージック・ヴィデオのこと、ツアー・ファイナルとして用意された初のホール公演のことなど、彼らに聞きたいことはたくさんある。会話は昨年10月末に公開されたスタジオ・ライヴ映像のことから始まった。
ーーまずは〈Blue Hawaii Session〉の話から始めましょう。そもそも「スタジオ・ライヴを映像化する」というアイデアは、どのようにして生まれたんですか。あのライヴ映像では既に「Science」も披露されてて、今回リリースされる『めまい』の伏線にもなってたと思うんだけど。
川辺素:単純にいろんなスタジオ・ライヴ映像を観ながら、「いいな。こういうことやってみたい」とは思ってたんです。よく観てたものだと、〈4AD session〉とか。あそこで公開されてるアリエル・ピンクのやつとか、ゆるいスタジオ・ライヴ中継なんかを観ながら、サウンド・プロダクション的にもちゃんとコントロールされた状態のライヴ映像を、自分たちも作ってみたいなって。なので、あの映像ってライヴ自体はそこまで演出してないんですけど、最終的なミックスとかにはけっこうこだわってるんです。
ーー配置やスタジオ内の雰囲気は、どういうイメージで組み立てたんですか。あのライヴが行われている場所は、ミツメが『eye』以降のレコーディングでずっと使ってきた〈Studio Greenbird〉ですけど、レコーディングの時とはまた違う見せ方にはなってますよね。
ナカヤーン:楽器の位置とか、ぼやっとした照明の感じは、それこそ〈4AD session〉を参考にしてましたね。
川辺:「せーの!」で録るとは言っても、映像にできるような配置に並べてはいるので、アンプをセパレートして録るような、いわゆるレコーディング的なリアリティはないんです。ただ、それでも普段のライブよりは音をコントロールできるような状態で録ってるので。
須田洋次郎:最初の頃から「ライブに近い配置でやろう」とは考えてたんです。レコーディングではみんなで向かい合いながらも、アンプはブース内に入れる形になるけど、〈Blue Hawaii Session〉ではアンプもブースの外に出してて、それを映像に収めつつ、ちゃんと音も拾えるようなやり方にしたかった。
ーー〈Blue Hawaii Session〉の見所といえば、PunPunさん(New House、PunPunCircle)と村野瑞希さん(ザ・なつやすみバンド)を加えた5〜6人編成の演奏が楽しめるところですよね。あの編成にも、きっと何かしらの意図はあったと思うのですが。
ナカヤーン:それもあの当時やってみたかったチャレンジのひとつだったんです。ライヴではどうしても再現できない部分を、しっかりカヴァーした演奏がやってみたくて。
川辺:4人だけの演奏だと、それこそパーカッションみたいなパートにはなかなか手が届かなかったりするんだけど、そこでサポートの二人が加わってくれると、音源でやったことがちゃんと再現できるんですよね。それは自分達も演奏しながらテンションが上がったところでした。
ーーそこに加えて、場所が実際にレコーディングで使ったスタジオとなれば、音源の再現性はさらに高まりますよね。たとえば、ナカヤーンが「number」のベース・ラインをローズ・ピアノで弾いてたりするのもそうだし。
ナカヤーン:そうですね。あれは〈Studio Greenbird〉備え付けのものなので。
須田:「number」は『ささやき』ツアーで一度も演奏してないんですよ。できればライヴでも音源と同じようなアレンジで演奏したいんだけど、どうしても手が足りなかったので。
川辺:そうそう。『ささやき』ツアーのときは、あのアルバムの半分くらいはやれなかったんです。あのツアーが終わったあとも、しばらくライヴは続いたんですけど、『ささやき』はけっこう多重録音が多いアルバムだったから、なかなか4人で再現できるようにはならなくて。
ーーなるほど。そこで〈Blue Hawaii Session〉と、それに伴う〈Blue Hawaii Session〉ツアーを年末に企画したんだ。
川辺:そんな感じでしたね。4人では演奏できなかった『ささやき』の曲を、一度あそこでやってみようと。それと同時に、『ささやき』とはまた違うこともやりたくなってたので、新曲と既存曲を半分ずつ撮った映像を先に公開して、それからワンマン・ツアーをやることにしたんです。
須田:もともと「『ささやき』ツアーが終わったらDVDを出そう」というところまでは計画してたんですけど、そこから「ツアーでやれなかった曲がけっこうあるから、サポートを加えた編成でスタジオ・ライヴをやってみよう。そうしたらまたツアーだ」みたいな感じで、次にやりたいことが自然と出てきたんです。つまり、〈Blue Hawaii Session〉には、『ささやき』の補完としてやったような側面もあったというか。で、それがちょうど年末に一段落したので。
ーーその一段落ついたあとに取りかかったのが、今回のシングルってこと?
川辺:はい。1月から録ってたんだよね?
須田:そうだね。年末の東京ワンマンが終わった直後に、まずは合宿をやったんですけど。
ーーもはや恒例ですね。レコーディング前の合宿。
須田:はい(笑)。並行して曲作りも進めつつ、「めまい」「取り憑かれて」「Alaska」のバンド・アレンジを二泊三日の合宿でしっかり固めたのが2014年の年末で、1月の第2週目からレコーディングを始めました。
ーーそこに「Science」を合わせて、4曲が揃ったと。今回のシングルはこれまでの作品よりもさらに隙間を感じられる音像になってますよね。それこそ「めまい」はギターも1本しか鳴ってないし。
大竹:「めまい」は特にスカスカですね。
須田:今回のシングルは、「この4人だけで鳴らせる音数にする」ことがコンセプトだったというか。
川辺:「めまい」は、去年の7月頃には既にあった曲なんです。でも、この曲は〈Blue Hawaii Session〉の雰囲気とはちょっと違うなと思って。それで、もともと今回のレコーディングはアルバムをつくる前提で考えてたんですけど。
ーーあ、このタイミングでアルバムを出すっていう構想もあったんですね。
川辺:はい。最初はそこに向かってやってたんですけど、途中から「今回はシングルもいいね」って。そんなときに、「めまい」はタイトル曲としてもすごく面白いんじゃないかという話になったんです。
大竹:次は「めまい」で行こうと決めたときに、なんとなく思ったのが、「今回は人の演奏している感じがわかる音にしたい」ってことで。『ささやき』は多重録音で新しいパートがどんどん入ってくるから、どうやって演奏してるのかがあまり想像つかない感じだったと思うんですけど、今回はそうじゃなくて、それぞれのパートでひとりのプレイヤーがずっと演奏してるような音にしたら、面白くなるんじゃないかなって。
ーー僕は今回の4曲を聴きながら、同じくシングルとして2013年7月に出た『うつろ』のことをなんとなく思い出したんです。どちらのシングルでもビーチ・ポップ風のギターとコーラスが聴こえてくるし、作品のムードもけっこう似てるなって。4人を引きで撮った「めまい」のMVも、ちょっと「うつろ」のMVを彷彿させるし。
須田:あぁ、たしかに。あの時はインドネシアでしたね。今回は伊豆大島で撮影したんですけど。
ーーあそこは伊豆大島なんだ。今回のMV、本当にシュールですよね。映像もめちゃくちゃキレイだし。
ナカヤーン:無駄に美しいっていう(笑)
川辺:もう、基本的にどこも絶景なんですよ(笑)。今回の撮影は、とりあえずロケーションだけ先に決めてて、あとはひたすら録画してました。そうしてるうちに「これ、途中でズームしたらおもしろいね」みたいな話になって。
須田:三日間の撮影だったんです。実際には一日目がロケハンで一泊して、二日目にナカヤーンと雅生が合流してから、二日間かけて各々が思いついたカットをひたすら撮っていくっていう。しかもこのとき、めっちゃくちゃ寒かったんです。
ーーかなり時間と手間をかけてますね。
川辺:しかも6人で撮影に行ったので、そこそこお金もかかってます(笑)
ーー(笑)曲の話に戻りますけど、「Alaska」の終盤で2本のギターがじっくりと絡み合っていく展開があるじゃないですか。あれも「会話」(『うつろ』収録曲)に近いアイデアがあったなと思って。
大竹:あぁ、たしかに。
川辺:なんか、そうなのかもしれないですね。どちらのシングルもアルバムをつくったあとで「ちょっとリキ抜いてやるか」みたいなタイミングで作ってるから(笑)
ナカヤーン:うん。流れ的には、今回のシングルもそういう感じだね。
大竹:(『うつろ』の前に出した)『eye』も「いろいろやってみよう!」みたいな感じで、けっこう張り切ってたところがあったもんね。
須田:で、そのあとに脱力するっていう(笑)
ーーどの曲も展開の起伏がかなり抑えられてますよね。そこは意識したところなんですか。
大竹:どうだろう。2曲目の「取り憑かれて」は、そういう意識も少しはあったかな。何も起こらない感じ。でも、今となってはそういう「抑えよう」みたいな意識ってあんまりなくて。もはや前提というか。
ーー何も起こらないというか、起こりそうな予感だけがあって、そのまま終わる感じですよね。
川辺:「ただの繰り返しにしよう」みたいな感じだったかな。「コードの数があまり多くならないようにしよう」とは意識してましたね。なんか最近はループ的なアレンジが積み上がっていくなかで完成した曲の方が、ミツメ的にいいものが出来ているような気もしてて。
ーーそのループ的なアレンジを川辺くんが意識するようになったのは、いつ頃から?
川辺:「春の日」が出来たあたりからです。ループで曲を作ることへの可能性を感じたというか、もっと繰り返しを感じられるような曲がやりたいなと。『めまい』の曲も、「Aメロ→Bメロ→サビ」みたいな流れはあるんだけど、なんとなく繰り返しているように聴こえたらいいな、とは思ってて。
ーー曲の骨組みは比較的オーソドックスなんだけど、少ないコード数とアレンジによって、どことなくループしているように感じられると。
川辺:そんな感じですね。あと、ここ最近のことを思い返すと、どうも自分が音楽を聴きながら反応しているポイントは、コード進行とかではないみたいで。じゃあ、歌なのかというと、そうでもない。多分それよりも最近の自分は、コード外の音に関心があるみたいなんですよ。パーカッションとか、ノイズなんかもそうなんですけど、そういう音像全体を豊かにしているような音に、最近の自分は「かっこいい」と感じることが多いみたいで。
ーーなるほど。それは〈Blue Hawaii Session〉の試みにもつながりそうですね。でも、以前にはコードやメロディを特によく聴いてたような時期もあるでしょ?
川辺:そうですね。たぶんファーストの頃なんかは、2本のギターが重なって、よくわからない和音になる瞬間とかに、すごく気持ちいいなと思ってた気がする。でも、たとえば今回だったら、「取り憑かれて」のパーカスとか、「めまい」のパーカスっぽいエレピとか、「Science」に入ってるカシオトーンのピコピコした音みたいな、そういう「ツイン・ギターとベースとドラム」以外のところで、この4人がコントロールできる範囲を増やしたいなと思ってました。そういう譜面には載らないような部分に、今は可能性を感じてるというか。ここを突き詰めていくと、またミツメらしさが再発見できるんじゃないかなって、今は思ってます。なかなかうまく言えないんですけど、次のアルバムではそういうことができたらなって。
ーーそれは次を作品につながるイメージでもあるわけですね。では、リリックに関してはどうだろう。川辺くんの作詞にはその時々のマイ・ブームや気分が作品ごとに表れてきたと思うんだけど、今回のシングルについてはどんな事が言えますか。
川辺:これもまた『ささやき』との対比になっちゃいますけど、あのアルバムには固有名詞がほぼ入ってなくて、むしろ名詞すらあまり出てこないんですよ。で、そのやり方はもうやれるところまでやったかなと思ってて。そこでまたちょっと脱力じゃないですけど(笑)、今回は自然に任せて書いたものを、あとでちょっと整えるくらいの感じでした。
ーー今回の歌詞も人称をはっきりさせないものが多いですよね。「僕」とか「あなた」「君」がほぼ出てこない。たとえば「取り憑かれて」とか、よくよく考えると誰が取り憑かれたのかは結局わからなくて、そこにちょっとした不気味さがあるんですよね。ほのぼのとした曲調なんだけど。
川辺:(笑)。「取り憑かれて」は、「印象はないんだけど、現象だけがある」みたいな感じかな。特定の何かがあるわけではないけど、「こういう感じになることってあるよな」みたいな。なおかつ演奏はずっと繰り返しの何も起こらないような感じで、それがちょっと怖いというか。でも、それもやっぱり狙ったわけではないんですよ。今回はどの曲も比較的さらっとしてるかなと思います。
ーーじゃあ、この流れでミツメの4人が『めまい』に取り掛かっている間、各々どんなことを考えていたのか聞いていきましょう。まず、ナカヤーンはどうでしたか。去年はソロ・アルバムのリリースもありましたね。
ナカヤーン:そうですね。ここ数年、ベースラインをあまり意識せずに音楽を聴いてたようなところがあったんです。で、「これはベーシストとしてよくない」と思って。スタジオに入ってセッションをしたときなんかも、ベースラインの幅が狭まってると感じてたんですよね。それで演奏の幅を広げるために、ベース参考用のプレイリストをつくって、いっぱい音楽を聴いたりしてました。
大竹:(笑)それは初耳だな。
ナカヤーン:ミツメはみんな、リズム・アプローチに対してすごくストイックだから、そこでベースをやっていく以上、アンサンブルのどこにベースの音符を置くのかはものすごく考えるんです。それに「余計な音は弾かない」っていうのもあって。でも、そこで変に慣れすぎたというか、ライヴで同じ事をずっと演奏していたら、いつの間にかそこから脱線できなくなってて。そこで改めていろんな音楽を聴きながら「なるほど。こうやってリズムを外すのか」みたいなことを学んでいくうちに、また少しずつセッションで動けるようになってきました。もちろん、まだまだなんですけど。
ーーちなみにそこでナカヤーンはどんな音楽を参照してたんですか。
ナカヤーン:ブギー・ファンクとかニューウェイヴですかね。で、今回のシングルでは全曲ちがう事をやろうと思ってました。それこそ「めまい」は本当に音数が少ないんですけど、「取り憑かれて」なんかはそれとぜんぜん違ってて。
川辺:あれはけっこう弾きまくりだよね。
大竹:「取り憑かれて」はベースからできた曲なんですよ。
ナカヤーン:あの曲のベース・ライン、最初はビートルズの「サムシング」みたいな感じにしようと思ってたんですよ。でも、結局はぜんぜんそんな感じにならなかったな(笑)。
ーー今回のシングルを通して、ナカヤーンはベーシストとしての意識を再び高めたわけですね。では、洋次郎くんはどうでしたか。
須田:そうだなぁ。たとえばミツメのアレンジって、まずは川辺が持ってきたデモを一度ばらして、そこに鍵盤でMIDIを打ち込んだりするような作業が始めにあるんですけど、そうなるとバンドでつくった最初のデモは、けっこう無表情な状態になるんです。以前はその無表情なデモを再現するような意識で生ドラムに落とし込もうとしてたんですけど、それをまた今回も繰り返すのは、自分のモチヴェーションとしてもよくないなと思って。
ーーたしかに『ささやき』のときは、「打ち込みでつくったデモの雰囲気をなるべく正規の音源にも残そうとした」と言ってましたね。でも、今回はそれとはまた違うモードに進んでもいいんじゃないかと。
須田:そうですね。もちろん、いろいろ試した結果として、デモの再現がベストだと思えたらそうしますけど。どちらにしても、自分にやれることをもっと増やしたいなと。そこで僕もいろんなレコードを聴きながら、音の録り方や演奏方法について考えてました。たとえば去年だったら、『Wheedle's Groove - Seattle Funk, Modern Soul & Boogie: Volume II 1972-1987』っていうソウルの音源を集めたコンピをよく聴いてたんですけど。
ーーソウルですか。コンテンポラリーなブラック・ミュージックについてはどうですか。たとえばディアンジェロとか、ロバート・グラスパーとか。
須田:もちろん大好きです。でも、自分がわりと好んで聴いてたのは、そういう昔に録音された音源が多かったかもしれません。それこそソウルって、録音された環境や楽器、演奏者の癖なんかがロックとかよりも幅ひろいから、ひとつひとつの音源を聴き比べるのがけっこう楽しくて。でも、同時にテクノっぽい打ち込みだけの音楽にもハマってたので、せっかく自分が何かやるからには、ただそういう音楽を再現するんじゃなくて、もっと解釈の仕方をひろげたいなと。
ーー「Alaska」のドラムは打ち込みですよね?
須田:あれはヤオヤの音ですね(ローランド社製のリズム・マシーン、TR-808のこと)。たしかにあの曲で生ドラムは使ってないんですけど、レコーディングではサンプリングしたものを実際に電子ドラムで叩いて録るっていう、すごく伝わりづらい過程を踏んでて(笑)。
ーーへえ! なんでそういう手法に行き着いたんですか。
須田:合宿のときに生ドラムも一回試したんですけど、ちょっと音がマッチョすぎるなという話しになって。そこでそういうやり方を試してみたら、結果的に人力ならではのヨレが生まれたんです。
ーー「Alaska」はアウトロが本当におもしろいよね。ツイン・ギターが徐々に盛り上がっていくのかと思いきや、結局それほど盛り上がらないまま終わるっていう(笑)。ドラムもエンディングは妙にラフな感じだし。
須田:元々あの曲は、ギターが盛り上がったくらいのタイミングでフェイドアウトする予定だったんですよ。つまり、本当はあそこまで収録される予定じゃなかったんです。でも、ああいう崩れた感じの終わり方はすごく気に入ってますね(笑)。それにもし人力でやってなかったら、ああいうグズグズしたアウトロにはならなかったので。
ーーグズグズしたアウトロ(笑)。僕もあそこはすごく気に入ってます。では、次は雅生くん。
大竹:僕はわりと毎回そうなんですけど、他のパートだったり全体のアレンジを考えたりするので、ギターを中心に考えることがあまりなくて。今回はそれこそさっき話したように、4人が演奏している感じをもっと出したいなと思ってました。逆に『ささやき』は演奏している人の顔が見えないというか、人間っぽくない違和感みたいなものが面白かったんですけど、今回はそれとは違った感じでやれたらなって。
ーー今回のシングルは雅生くんの弾くフレーズがすごく際立ってるようにも感じてて。変な言い方だけど、けっこうギタリストっぽいプレイだなと思ったんです。だから、案外いまの雅生くんはギターを弾くのが楽しいモードなのかなと。
大竹:たしかに、結果的にはそういうプレイになったのかもしれない。『ささやき』はけっこう変なアプローチというか、サンプリングみたいな感じのフレーズが多かったんですけど、今回のシングルは歌が軸になっていると思うんですよ。そうなると逆にギタリストっぽいギターの方が、上手く調和するというか。そんなに変わったことはしたくないなっていうのは、今回けっこうあったのかも。
須田:アレンジに関することでいうと、今はツアーに向けていろんなリアレンジを試みている時期でもあるんですよ。「こうアレンジすれば、うまく曲と曲をつないで聴かせられるんじゃないかな」とか。特に今回のツアーは最後に東京で2デイズがあるんですけど、そこで演奏する曲も今からだいたい決めてて。
ーーなるほど。長尺ライヴ用の聴かせ方を練ってる最中なんですね。
川辺:はい。『めまい』のレコーディングでは、この4人の演奏を再構築することに意識が向いてたんですけど、今はそれがライヴに向いてる状態なんだと思います。
ーー『めまい』で追求した4人の演奏が、今回のツアーでさらに突き詰めたものになると。では、青山スパイラル・ホールで開催されるツアー・ファイナルのことをもう少し訊かせてください。この全席指定のホール会場で2デイズというプランは、どんな発想から決まったんですか。
須田:スパイラル・ホールはライヴだけじゃなくて、それこそファッション・ショーとか、本当にいろんな事に使われてる多目的スペースなんです。
川辺:ホール会場って自分たちで機材をぜんぶ持ち込まなきゃいけないし、ライヴ全体の雰囲気も含めて、自分たちでイチから組み立てることになるじゃないですか。それがいいなと思って。そこでスパイラル・ホールは立地や収容人数もちょうどよかったし、自分たちのやりたいことが実現できそうな場所だなって。『めまい』は、今までの自分たちにはできなかったことが少しだけ出来るようになったシングルなので、今回のツアーでもそこを見せたいんですよね。今までの自分たちにはできなかった事が、少しだけできるようになったライヴにしたいなって。
ーーこの6ヶ所7公演を通して、次作の糸口が掴めるのかもしれないし。
川辺:そうですね。今は曲間のつなぎとか、そういうところに次のヒントが見えてくるような気がしてます。